「もう手遅れです」としか言えなかった、認知症発症後の不動産売却相談
- 石田敦也

- 5月9日
- 読了時間: 6分
神戸市北区 鈴蘭台駅前:相続相談のダイヤモンドコンサルティングへ
認知症対策と任意後見人について、わかりやすく解説します。

■ この記事の結論
自宅の売却を視野に入れた認知症対策は、
ご本人が元気なうちにしか打てません。
発症後に相談を受けても、
不動産業者の私たちにも、
本当に何もできないことがあります。
これは、現場で実際にあった話です。
■ 老人ホームに配ったチラシ
去年のことです。
事務所の近くにある複数の老人ホームに、
ポスティングを依頼しました。
郵便局の場所指定配布サービスを使い、
表面は不動産売却相談、
裏面は残置品の処分と草刈りのご案内、
という構成のチラシを配ってもらいました。
反響は3件。
件数だけ見れば多くはありません。
ただ、一件一件の中身が、
非常に深刻でした。
中でも今でも忘れられないのが、
その3件目の相談です。
■ 相談の内容
ご相談者は、
老人ホームに一人で入居されている
高齢の女性でした。
ご主人も認知症を発症されており、
別の介護施設にいらっしゃる。
長年ご夫婦で暮らされてきた星和台の自宅は、
誰も住まないまま空き家になっている。
管理する人もおらず、
固定資産税だけが毎年出ていく。
「なんとか売却できないでしょうか」
そう、私に相談されました。
■ 私に伝えられたこと
結論から申し上げると、
私はこの方のお力になることができませんでした。
ご主人がすでに認知症を発症されているため、
ご本人の意思で自宅を売却することは、
法律上できません。
残された道は、
法定後見制度を利用することだけです。
家庭裁判所に申し立てて、
後見人を選任してもらい、
その後見人を通じて法律行為をお願いする。
そういう手順になります。
ただ、法定後見制度は、
ご主人がお亡くなりになるまで続く制度です。
途中でやめることはできません。
後見人に毎月数万円の報酬を支払い続け、
家庭裁判所への報告も継続的に必要になります。
売却までの道のりも長く、
その後の負担も重い。
費用のお話を一通り説明したあと、
ご相談者の方は、
静かに「やっぱり、難しいですね」と
おっしゃいました。
私もその通りだと思いました。
ご本人の年齢、年金額、
ご主人の介護費、ご自身の入居費。
すべてを天秤にかけたとき、
法定後見の費用負担は、
現実的にあまりにも重すぎたのです。
これは厳しい現実ですが、
そのまま事実をお伝えするしかありません。
■ では、どうすればよかったのか
正解は、
ご主人が認知症を発症される前、
お元気だったうちに、
任意後見契約を結んでおくことでした。
任意後見と法定後見は、
似ているようで、
まったく違います。
【任意後見】
・認知症になる前に契約
・後見人は本人が決める
・費用は比較的軽い
【法定後見】
・認知症になった後に申立
・後見人は家庭裁判所が決める
・費用は重く、継続する
法定後見制度 | 任意後見制度 |
認知症になってしまってから | 認知症になる前に |
家庭裁判所が決める | 本人が決める |
任意後見契約は、
お元気なうちにご本人が
信頼できる方を後見人に指名し、
公正証書で契約を結んでおく制度です。
費用も比較的軽く、
何より「自分のことを自分で決められる」
という大きなメリットがあります。
ご夫婦のどちらかが先に認知症を発症しても、
もう一方が元気なうちに契約していれば、
自宅売却の道は残せたはずでした。
■ もうひとつの選択肢、相続時精算課税制度
任意後見契約と並行して、
ぜひ検討いただきたい対策が
もうひとつあります。
相続時精算課税制度の活用です。
これは60歳以上のご両親から
18歳以上のお子さんへ、
最大2,500万円まで贈与税をかけずに
財産を移せる制度です。
お元気なうちにこの制度を使って
ご自宅の名義をお子さんに移しておけば、
将来ご本人が認知症を発症されても、
名義人であるお子さんのご判断で
ご自宅を売却することができます。
後見人を立てる必要も、
家庭裁判所の関与もありません。
ただし、注意点もあります。
一度この制度を選ぶと、
通常の暦年贈与(年110万円の基礎控除)
には戻せません。
そして、ご自宅は名義変更の時点から
お子さんの財産となります。
将来、お子さんが借金を抱えたり、
離婚されたりすれば、
ご自宅にも影響が及ぶ可能性があります。
不動産取得税や登録免許税も、
相続で取得する場合より高くつきます。
任意後見契約と相続時精算課税制度。
どちらが向いているかは、
ご家族の関係性や財産構成によって
大きく異なります。
両方を組み合わせて活用される方も
いらっしゃいます。
■ 同じ後悔をしないために
神戸市・芦屋市・西宮市の高齢化は、
毎年確実に進んでいます。
ご相談に来られる方の多くが、
「もう少し早く動いていれば」
と口にされます。
不動産業者として、
はっきり申し上げます。
自宅の売却を視野に入れた認知症対策は、
ご本人もご家族も、
お元気なうちにしか打てません。
ダイヤモンドコンサルティングでは、
相続診断士として、
提携する司法書士・行政書士と一緒に、
任意後見契約の段取りもサポートしています。
「うちもそろそろ考えた方がいいのかな」
そう感じた段階が、
動き始めるベストタイミングです。
私たちが「もう手遅れです」と
お伝えしなくて済むよう、
一日でも早くご相談いただければと思います。
■ よくあるご質問
Q1. 任意後見契約は、費用はどのくらいかかりますか?
A. 公正証書の作成費用と、専門家への
報酬を合わせて、数万円〜十数万円程度が
目安です。法定後見と違い、後見人への
報酬も親族が引き受ける場合は発生しない
ケースが多く、トータルでは大きく
抑えられます。
Q2. 子どもがいない夫婦の場合、
任意後見人は誰にすればいいですか?
A. 甥姪などの親族のほか、信頼できる
司法書士・行政書士・弁護士などの
専門家に依頼することもできます。
当社でも提携専門家のご紹介が可能です。
Q3. すでに認知症が進んでいる家族が
いる場合、本当に打つ手はないのでしょうか?
A. 残念ながら、ご本人による任意後見
契約も、相続時精算課税制度を使った
名義変更もできません。法定後見制度を
使うか、自宅を空き家のまま維持していくか
の二択になります。だからこそ、まだ
症状が出ていないご家族のために、
今動くことが何より重要です。
Q4. 任意後見契約と相続時精算課税制度、
どちらを選べばいいですか?
A. ご家族の状況によります。信頼できる
お子さんがいて、贈与しても問題のない
関係性であれば、相続時精算課税で名義を
移しておく方が、将来の売却はスムーズ
です。お子さんがいないご家庭や、贈与に
懸念のある場合は、任意後見契約が向いて
います。両方を組み合わせるご家庭も多く、
当社では提携専門家とともに、ご家族ごと
の最適な組み合わせをご提案しています。
【この記事を書いた人】
石田敦也
ダイヤモンドコンサルティング
宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/相続診断士
神戸市・芦屋市・西宮市エリアで、
不動産の売買・賃貸管理・
相続相談に従事。
「売る・貸す・遺す」をテーマに、
オーナー様・ご家族様の
資産と想いをつなぐお手伝いをしています。


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