表面利回りは「写真」、物件の価値は「動画」で見る—買付を入れる前の5分チェック
- 石田敦也

- 1 日前
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利回りだけでは分からない。将来の家賃収入と売却額を現在価値に直すと、この価格は説明できるのか?
以前、不動産鑑定士をしている後輩と飲んでいて、収益物件の鑑定の話になりました。彼らが投資用物件を評価するとき、DCF法という手法を使うそうです。将来のキャッシュフローを一年ずつ予測して、今の価値に割り戻して合計する。名前だけ聞くと難しそうですが、やっていることは実にまっとうで、聞きながら私は「これは投資家こそ知っておくべき考え方だな」と思いました。
というのも、この仕事を25年やってきて、収益物件の購入相談で圧倒的に多い判断基準が「表面利回り」だからです。販売図面の右上に書いてある、あの数字。年間の満室賃料を販売価格で割っただけの、いちばんシンプルな指標です。
私は表面利回りを否定しません。物件をふるいにかける入口としては便利です。ただ、表面利回りには決定的な限界があります。それは「今この瞬間」しか写していないことです。いわば写真です。空室が出たときの募集費用も、10年目にやってくる外壁修繕も、売るときにいくらで売れるかも、写真には写りません。
一方、鑑定士が使うDCFは、同じ物件を10年分の動画として見ます。毎年の家賃から経費を引き、修繕を織り込み、最後に売却したらいくらか。そして大事なのはここからで、将来のお金は今のお金より価値が低いものとして割り引いて合計します。10年後の100万円と今の100万円は同じではない。今の100万円は運用に回せますし、10年後に予定どおり家賃が入る保証もないからです。
実際に数字で見てみると
たとえば、販売価格6,500万円、満室想定で月40万円の一棟アパートがあったとします。表面利回りは7.4%。今の市況なら「悪くない」と感じる水準です。
これを動画で見ます。年間480万円の賃料から、空室損5%、経費20%、修繕積立5%を引くと、手元に残る純収益は年336万円。これが10年続き、10年後に利回り6%で売却できたとして、売却費用を引いた手取りが約5,400万円。ここまでの全部を今の価値に割り戻して合計すると、約5,900万円になります。
(年間満室賃料は40万円×12ヶ月で480万円。ここから空室率5%、経費率20%、修繕積立5%を引くと、残る割合は70%なので、純収益(NOI)は480万円×0.70=336万円です。
家賃収入10年分の現在価値は、NOIに割引率5%・10年の年金現価係数7.7217を掛けて、336万円×7.7217=約2,594万円。
売却のほうは、336万円÷6%=5,600万円で売れる想定、売却費用3%を引いて手取り5,432万円。これは10年後に受け取るお金なので、1.05の10乗(約1.6289)で割り戻して、5,432万円×0.6139=約3,335万円。
合計すると2,594万円+3,335万円=約5,929万円。)
販売価格6,500万円に対して、この物件が将来生むお金の現在価値——これを理論価格と呼びます——は約5,900万円。差額の約600万円は、将来の家賃では説明がつかない部分です。表面利回り7.4%という写真では見えなかったものが、動画にすると見えてくる。もちろん前提を変えれば答えは動きますが、少なくともこの600万円の差をどう受け止めるか、買付を入れる前に一度立ち止まって検討する材料にはなります。指値を入れるのか、この条件でも買う理由が自分にあるのか、それとも見送るのか。判断の物差しを一本持っているかどうかの差は大きい。
関西の投資家が特に知っておくべきこと
もうひとつ、実務家として付け加えたいのは賃料の話です。関東の賃貸には2年ごとの更新という商慣習があり、更新のたびに賃料改定を切り出す機会があります。ところが関西では更新が事実上自動で流れるため、入居中の賃料はまず動きません。賃料を市場水準に合わせられるのは、実質的に退去して入れ替わる瞬間だけです。
つまり「これからはインフレだから家賃も上がるだろう」という期待は、関西の居住用物件では慎重に見積もる必要があります。私が今回作ったチェッカーで賃料上昇率をゼロに固定しているのは、このためです。上がったら儲けもの、くらいの保守的な前提で買っておくほうが、長い目で見て怪我をしません。
5分で試せるようにしました
この計算、理屈は単純でも手でやると面倒なので、簡易チェッカーにしました。入力するのは販売価格、月額賃料、経費率、保有年数、そして売却時の想定利回りの5つだけ。売却時の利回りは、築浅5%・普通6%・築古7%・地方8%の4つから物件タイプで選べるようにしてあります。空室率や割引率といった専門的な前提は、保守的な数値で中に組み込んであります。
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検討中の物件の数字を入れると、10年分の家賃と売却額を今の価値に直した理論価格が出て、販売価格と見比べられます。緑なら割安の水準、赤なら割高の水準。まずは写真ではなく動画で、その物件を一度見てみてください。
最後にひとつだけ正直に書いておくと、この手の計算は前提の置き方ひとつで答えが数百万円動きます。空室率を1%動かす、売却時利回りを0.5%動かす、それだけで結論が変わる。
だからこそ簡易チェッカーは入口であって、出口ではありません。修繕の履歴、入居者の顔ぶれ、エリアの需給、出口の売りやすさ。数字の外側にあるものを含めて前提を組み立てるのが、私たちのような立場の仕事です。



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