「旧耐震は違法ではない、だが、」災害時の損害賠償リスクと検査済証の重要性
- 石田敦也

- 5月16日
- 読了時間: 6分

20年前、西宮市の文化住宅の管理を引き受けたとき、私はこの建物が旧耐震基準で建てられていることを意識していませんでした。入居者の高齢化、家賃の入金、雨漏りの修理 ーー目の前のことを片付けるので精一杯で、地震で倒壊したらどうなるかなんて、考える余裕もなかった。今そこには10人ほどの高齢者が住んでいて、その多くが生活保護を受けています。
20年経って、ようやく落ち着いてこの状況を見られるようになりました。見えてくると、いくつもの相矛盾する事実が同時に存在していることに気づきます。今日はその4つを、結論を急がずに並べてみたいと思います。
1、旧耐震を貸すこと自体は違法ではない
新耐震基準は昭和56年6月1日に施行されました。それ以前に建築確認を取得した建物は旧耐震と呼ばれますが、これは合法的に建てられた建物が法改正で「既存不適格」になっただけで、貸すこと自体が違法になったわけではありません。
建て替えるときは現行基準に合わせる必要がありますが、現状のままで存続させ、賃貸することは法律上認められています。
ここを誤解している方を時々見かけます。「旧耐震は貸せない」「旧耐震は媒介できない」と決めつけている。そうではない。ただ、合法であることと、リスクがないことは別の話です。
2、しかし、災害時に損害賠償のリスクは現実にある
阪神・淡路大震災で倒壊した賃貸マンションを巡って、神戸地裁が平成11年9月20日に出した判決があります。一階部分が圧潰し、賃借人とその家族のうち4名が亡くなった事故で、所有者に約1億3,000万円の損害賠償が命じられました。
この判決は、単純に「地震で倒壊したから所有者が悪い」と言ったわけではありません。建物の壁厚や鉄筋量が当時の設計基準にも届いていなかったこと、つまり「建築当時の基準を考えても、通常備えるべき安全性を欠いていた」と認定されています。
地震という不可抗力との競合は認められて、損害額は5割減額された。それでも、5割の賠償です。
民法717条の工作物責任は無過失責任です。所有者は「過失がなかった」とは言えない。特約で全部を免責することもできません。消費者契約法で、人身損害の全部免責は無効になります。通行人や隣家への損害については、契約関係のない第三者なので、そもそも特約が及びません。
「旧耐震だから即責任」ではない。でも、「特約があるから安心」でもない。建物の状態と、それを把握していたかどうかが、最終的に裁判で問われることになります。
3、壊れそうな建物と分かって貸すのは、倫理的にどうなのか
ここから先は法律論の外側の話です。
阪神大震災から30年経って、神戸で仕事をしていれば、震災で家族を失った人の話を一度や二度は聞いています。倒壊した家屋の下で何時間も助けを待った人の話も。あの瞬間に建物の中にいたのが、自分の管理物件の入居者でないと言える保証は、どこにもありません。
家賃を取って人の住まいを提供する以上、その建物が大地震で持ちこたえるかどうかは、所有者と管理者がいちばん知っていなければならない情報です。「考えてもいなかった」では、本来は済まない。
私自身20年前はそれを考えていなかったので、人のことを言える立場ではありません。でも、考え始めてしまった以上、もう戻れません。
「壊れそうな家と分かっていて貸すのは、倫理的にどうか」ーーこの問いに、私はまだはっきりとした答えを持っていません。
4、しかし、安い家賃でしか住めない人もいる
問いをそのまま立てたら答えが出ない、というのが厄介なところです。
私が管理している文化住宅の入居者は、ほとんどが高齢者で、生活保護を受けている方もいます。彼らが今住んでいる場所を出ても、次に住む場所があるかというと、ない可能性が高い。
新築の物件は家賃が高すぎるし、それ以前に「高齢者は孤独死のリスクがある」「生活保護は家賃滞納のリスクがある」と審査で切られて、入居自体ができない。
新しくて安全な建物ほど、いちばん住む場所を必要としている人を排除している、という皮肉な構造があります。
私の管理している文化住宅は、住宅セーフティネット政策が機能不全を起こしている隙間を、現場で埋めている建物です。そこに住んでいる10人の高齢者を、地震リスクを理由に追い出すことが「正しい」のかというと、簡単にはそうとは言えません。「壊れるかもしれない建物に住み続ける」リスクと、「住む場所を失う」リスクは、別の種類のリスクですが、どちらも命に関わります。
4つを抱えたまま立っている
ここに並べた4つの事実は、どれも本当のことだと思います。
旧耐震を貸すことは違法ではない。でも、災害時に損害賠償のリスクはある。壊れそうな建物と分かって貸すのは倫理的に問えるけれど、安い家賃でしか住めない人もいる。
この4つを一つの結論に収束させようとすると、必ずどれかを犠牲にします。「だから貸さない」と言えば4番目を切り捨てる。「だから貸し続ける」と言えば2番目と3番目に目をつぶる。「投資家それぞれの判断」と問題を投資家に投げ返せば、貸す側・媒介する側の責任から逃げることになる。
きれいな答えを出せる人は、たぶんいません。少なくとも私には出せない。
私が今やっているのは、4つを抱えたまま管理を続けることです。耐震診断をできる範囲ですること。確認申請を要しない範囲でも、できる補強はしておくこと。空室が出ても無理に新規募集をかけないこと。長期的には建替えや売却の計画を持っておくことなどです。
これから古家投資を考えている方へ
最後に、これから旧耐震の物件を買おうとしている方に向けて、一つだけ書いておきます。
物件取得の段階で、検査済証の有無を必ず確認してください。価格交渉の材料としてではなく、取得可否の判断材料として。
検査済証がない物件は、後から耐震診断も補強も難しくなります。買ってから20年後に、私と同じ位置に立たされる可能性が高い。
そして、もし買うなら、補強投資の予算込みで採算が合うかどうかで検討してください。それで案件数が減るなら、減っていい。安く買って、安く貸して、審査を緩くして、回す ーーこのビジネスモデルは、実は社会的に必要とされている部分があります。否定はしません。でも、それを引き受けるなら、入居者の命に対する責任もセットで引き受ける覚悟が要ります。
「安く買えたつもりが、いちばん高くついた」ーーこれは古家投資でいちばんよく聞く失敗です。買う前の確認で防げる失敗が、本当に多くあります。物件を見に行く前に、まず検査済証の有無を確認する。これだけで、判断のスタート地点が変わります。
ダイヤモンドコンサルティングは、客付け実務は大手の仲介業者と連携しています。私たちが担当しているのは、契約設計、補強投資の判断、収益シミュレーション、相続を見据えた出口戦略、といった川上の相談です。神戸市を中心に30年やってきた地元業者として、検査済証ありの物件を耐震補強の判断とセットで考えたい、というご相談はいつでもお受けします。



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