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法人の大家さんが使える「任意償却」とは|利益の平準化と、融資審査で起きること

  • 執筆者の写真: 石田敦也
    石田敦也
  • 2 日前
  • 読了時間: 7分

個人と法人で、減価償却はどう違うのか


本稿では、法人の減価償却における「任意償却」の仕組みと、それを使った利益の平準化、そして金融機関の評価で何が起きるのかを整理しわかりやすく解説します。



個人と法人で、減価償却はどう違うのか


個人は強制償却です。所得税法49条により、減価償却費は必ず計上しなければなりません。計上しない自由も、金額を減らす自由もありません。


法人は任意償却です。根拠は法人税法31条で、損金に算入できるのは「損金経理をした金額のうち、償却限度額に達するまでの金額」と規定されています。


ここで重要なのは「達するまで」という文言です。償却限度額は上限であって、義務ではありません。


したがって法人は、限度額の範囲内であれば、減価償却費を自由に調整できます。極端にいえばゼロでも構いません。


同じ「減価償却」という制度でありながら、個人と法人で正反対の扱いになっている。これが、法人化された大家さんが最初に押さえるべき差です。



任意償却で何ができるのか─利益の平準化


任意償却の実務上の使いどころが、利益とキャッシュフローの平準化です。


なぜ、家賃が同じでも税金が増えるのか


元利均等返済の場合、毎月の返済額は一定ですが、その内訳である元本と利息の比率は年々変化します。返済初期は利息の割合が大きく、後半になるほど元本の割合が大きくなります。


そして、経費として損金算入できるのは支払利息のみで、元本返済は経費になりません。


  • 1年目:支払利息100万円 → 経費計上100万円

  • 10年目:支払利息10万円 → 経費計上10万円


支出額は変わっていないにもかかわらず、経費だけが90万円減少します。経費が減れば利益が増え、利益が増えれば法人税が増える。手元の現金は増えていないのに、税負担だけが年々重くなる。これが、返済が進むほど資金繰りが苦しくなる構造的な理由です。



減価償却で、この波を打ち消す


そこで、支払利息の減少分を減価償却費で埋めていきます。


  • 1年目:利息100万円+償却250万円=経費350万円

  • 10年目:利息10万円+償却340万円=経費350万円


支払利息が重い前半は償却を抑え、利息が軽くなる後半は償却を厚くする。両者の合計が一定になるように配分することで、経費が毎期一定となり、結果として利益・法人税・税引後キャッシュフローが平準化されます。


減価償却費は現金支出を伴わない費用です。したがって、現金を動かさずに経費の計上時期をコントロールできる。ここが減価償却の実務的な価値です。


具体的な計算は顧問税理士が行いますが、大家さん側が理解しておくべき原則は「支払利息の減少分を、減価償却費で埋める」の一点に尽きます。



どんな物件で効果が出るのか──中古物件で効きやすい


この手法には前提条件があります。償却限度額という上限は超えられないという点です。そして、この上限の高さが物件によって大きく異なります。

物件

耐用年数

建物3,000万円の償却限度額

中古木造(築22年超)

4年

750万円

新築木造

22年

138万円


同じ取得価額でも、限度額には5倍以上の差が生じます。

先の例で使った250万〜340万円は、中古木造であれば限度額の半分以下です。上限まで十分な余白があるため、その範囲内で自由に配分を設計できます。


一方、新築木造では年138万円の枠内でしか動かせないため、平準化できる幅は限定的です。まったく機能しないわけではありませんが、効果は小さくなります。


つまり、耐用年数が借入期間より短いほど、この手法は有効に機能します。法人で中古の収益物件を取得された大家さんが、最も恩恵を受けやすい構造です。



金融機関はどう評価するのか


ここからが、実務上もっとも重要な論点です。

任意償却を知った方が最初に考えるのが、「決算内容が芳しくない期は、償却を抑えて利益を出せばよいのではないか」という発想です。


この目的では機能しません。


償却不足は、限度額まで引き直されて評価される


決算申告書を取引金融機関へ提出すると、その内容はシステムに入力され、格付け(評価)が算出されます。


この評価において、減価償却費を限度額まで計上していない場合、限度額を全額計上したものとして引き直したうえで評価されます。


つまり、償却を抑えて利益を大きく見せたとしても、その調整は評価上なかったものとして扱われます。決算書の見栄えは改善しません。


一方で、支払った税金は戻らない


金融機関が重視する指標のひとつに、債務償還年数があります。

債務償還年数 = 借入金残債 ÷(税引後利益 + 減価償却費)

現在の収益力で借入を何年で返済できるかを示す指標で、債務償還年数<残存耐用年数であれば問題なしと判断されるのが一般的な目安です。

この算式の分母を、償却抑制の前後で比較します。


  • 通常どおり計上:税引後利益70万円+償却300万円=370万円

  • 償却を抑制:税引後利益280万円+償却0円=280万円


差額の90万円は、増加した法人税です。償却を抑えれば課税所得が増え、法人税が増え、その税金は現金として社外に流出します。


償却は評価上戻されますが、支払済みの税金は戻りません。結果として分母だけが小さくなり、債務償還年数は長期化します。評価はむしろ悪化する。見栄えを取りにいった結果、返済能力を示す指標を自ら悪化させることになります。


平準化目的であっても、書類上の扱いは同じ


そして、ここが本稿でもっとも申し上げたい点です。

見栄え目的ではなく、正当な平準化目的で任意償却を用いた場合でも、書類上の扱いは変わりません。


限度額750万円に対して250万円しか計上していなければ、差額500万円は償却不足額として別表16に表れます。決算書には「これは資金繰りの平準化を意図したものである」とは書かれていません。意図は、書類からは読み取れないのです。


また、格付けにおける決算書のウエイトは概ね半分程度、残る半分が経営者の属性や人柄とされます。裏を返せば、経営者の評価がどれほど高くても、決算内容が芳しくなければ融資は厳しくなるということです。ここは人柄で補える領域ではありません。


したがって、平準化を行っていた期間の決算書は、次の物件取得時や借換え時の審査に影響する可能性があります。この点は、手法を採用する前に認識しておく必要があります。


なお、この受け止め方は金融機関によって、また支店や担当者によっても差があります。一般論として断定できる領域ではないため、実際に採用される際は、取引金融機関の見解を事前に確認されることをお勧めします。



結局、使うべきなのか─経営フェーズで判断する


ここまで融資面の不利を中心に述べてきましたが、任意償却による調整は違法でも脱法でもありません。適法な経営判断の選択肢のひとつです。


そして忘れてはならないのは、その税金を負担するのは金融機関ではなく、大家さんご自身であるという点です。


償却を限度額まで計上し続ければ金融機関の評価は保てますが、税負担の波と読めない手取りは、そのまま経営者が引き受けることになります。

したがってこれは、正誤の問題ではなく、何を優先するかの経営判断です。


  • 物件を買い増していく拡大期であれば、金融機関の目線を優先する。減価償却は限度額まで計上する。

  • 保有物件が固まり、手取りの安定を優先する時期であれば、平準化を選ぶ。


拡大と平準化は、同時には成立しません。会社のフェーズによって選択するものと整理すると、判断がしやすくなります。


法人化されて間もない大家さんの場合、そもそもこの選択肢が存在すること自体をご存じないケースがあります。


次の決算前に、顧問税理士へ「当社の減価償却は、どのような方針で計上していますか」と一度確認されることをお勧めします。何も検討せず限度額いっぱいで処理していた、という回答は決してめずらしくありません。


選んだ結果としてそうしているのであれば、何の問題もありません。問題は、選べることを知らないまま10年が過ぎてしまうことのほうです。




参考文献:萱谷有香『不動産投資の税金を最適化「減価償却」節税バイブル』技術評論社、2021年


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