海外居住者の不動産売却|離婚後のマンション売却で必要だった書類とは
- 石田敦也

- 7 時間前
- 読了時間: 3分

決済の10日位前、司法書士から電話が入った。
「石田さん、これ、間に合いますかね」
声のトーンで、何かがズレていることがわかった。
少し時間を巻き戻します。
西宮にあるメガロコーポという分譲マンションの売却相談を受けたのは、その少し前のことだった。
ご夫婦は離婚されていて、奥さんがおひとりで住んでおられた。実家に戻ることが決まり、もうマンションは要らない。手放したい、というご相談だった。
ただ、整理しなければならない点がいくつかあった。
名義は元ご主人だった。ローンも、わずかだが残っていた。財産分与については、お二人のあいだですでに合意ができていて、売却代金で残債を清算し、残った分を分ける。話し合いは、すでに終わっている状態だった。
問題は、その元ご主人が、香港にいらっしゃることだった。
金融機関にお勤めで、当時、現地に駐在されていた。
不動産は、所有者本人の意思がすべての起点になる。
奥さんが「売りたい」とおっしゃっても、それだけでは売れない。財産分与の合意があっても、登記上の名義人が動かなければ、何も進まない。
まず、奥さんから元ご主人に連絡を取っていただき、直接お電話で意思の確認をさせていただいた。
媒介契約書は、国際スピード郵便FedExで香港に送り、署名いただいて、また送り返してもらった。
電話で済むやり取りは電話で、原本にサインが要るものは郵便で。日数もコストもかかるが、これは仕方がない。
ここまでは、想定の範囲だった。
オープンハウスを何度か開催し、購入のお申し込みをいただいた。
買い主は、同じエリアの賃貸マンションにお住まいの方だった。日々その界隈で暮らしておられて、物件のことも、街のことも、よくご存じだった。
物件の良さは、いちばん近くで暮らしている人にいちばん伝わる。
契約は、元ご主人に一時帰国していただいて、無事に締結した。
ここまで来れば、あとは決済だけ。
そう思っていた。
問題は、決済の数日前に起きた。
冒頭の、司法書士からの電話だ。
「元ご主人、住民票はどうなっていますか」
香港に駐在された時点で、日本の住民票は抜いてある。だから、印鑑証明書も取れない。
決済では、所有権移転登記のために、印鑑証明書が必要になる。日本に住んでいれば当然のように取れる書類が、海外居住者には取れない。
代わりに、香港の日本領事館で「サイン証明」と「在留証明」を取得し、それを日本の元の住民票と紐づける手続きが要る——と、司法書士は説明してくれた。
ぼくにとっては、初めての海外居住者との契約だった。
時間は、もうあまり残されていなかった。
契約の時にーー伝えていればーーと後悔した。
すぐに元ご主人にご連絡して、事情を説明する。
香港の日本領事館で手続きをしていただき、書類を、また国際スピード郵便で日本に送ってもらった。
封筒が日本に届くまで、何度も追跡番号を確認した。
無事に書類が揃い、迎えた決済当日。
三井住友銀行の西宮支店で、買主、売主、司法書士、ぼくが集まり、淡々と手続きが進んでいく。
通帳に着金が確認され、鍵が買主にわたる。
奥さんは、長く続いた区切りをようやくつけて、ご実家に戻られた。
最後に
香港からの一通の郵便を待ちながら、改めて気づかされたことがある。
お客様ご自身も、これから何が問題になるかを、ご存じないということだ。
奥さんは、元ご主人の住民票が日本にないことが、決済直前にこれほど大きな問題になるとは思っておられなかったと思う。
ぼく自身も、最初のご相談の時点では、こんな段取りが必要になるとは想像していなかった。
お客様が知らないことを、ひとつずつ拾い上げて、ご説明し、段取りを組む。
それが、ぼくの仕事なんだな、と。



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